【月+山+こがね】0901

・なんでもいい人向け
・年:25、6くらいな月+山+こがねの飲み会(ほんのり月山風味)
・好き勝手捏造

「……ちょっと、飲ませすぎないでよ」
「山口が勝手に頼んでるんだろー」
 金曜、居酒屋。土日祝には試合や練習が多く入っている月島は、勤務先の博物館が融通してくれていることもあり基本、週末が休みだった。平日の休館日も働く者にとっては休みでない場合もあり、そういった際は率先して動くことによりうまく渡り歩いている。そもそも博物館勤務のVリーグ選手として公表していることが、博物館的には宣伝になっていいらしい。
 そんな事情もあり月島は今日、休みである。だから、一般企業努めの幼馴染・山口忠と、シフト勤務でちょうど翌日が休みだというチームメイト・黄金川の誘いを受け居酒屋へ来ていた。
 それなりに縁のあるライバル校の同年代。そのうえ、まさか当初こそ思っていなかったが三年時には主将を務めた黄金川である。月島自慢の──口にはしないが──チームの、主将を務めた山口はそれなりに親しいようだ。練習試合のたびに話せば、それもそうかとは思う。月島自身は、黄金川とはほどほど、だと思っているが。
「あ、やば」
「なに?」
 店員から受け取り、隣の山口の席にビールを置いた黄金川が動きを止めた。特徴的な前髪がぴょこりと揺れる。なお、山口は実家から電話が来たため席を外している。
 そうしていそいそと自らのスマートフォンを手に取る。ほんの僅か、座敷が震えた気がしたのは彼のそれの、バイブレーションの振動だったようだ。個室とはいえ居酒屋など人の出入りが多い。気にするまでもない振動は今も感じるほどに。
「えー……」
「どうしたんだよ」
「二口先輩が今から映画見ようって」
 彼が口にした名前から、脳内で思い浮かべる。映画ってキャラだったっけ、なんて失礼なことをだ。
 お互いにライバル校としてのポジションを確立してからは切磋琢磨し合う仲になったと思う。二年時のインターハイでは苦渋を飲まされたが、練習試合も合同練習もした。彼らの技が今の月島の一部であることは間違いなく、彼、二口とは反りが合わないながらもどこか同じだなあと思うこともあり。
「ラストオーダーまであと十分だよ」
 時計を見て、唸る黄金川に助け舟をやる。先輩になついている男のことだ、断るわけにも行かないし誘った手前抜けるのも、と思っているのだろう。飲み放題で時間をとっているものの、ラストオーダーは時間いっぱいよりも少し早く設定されているため、十分後では少し損だが、金額を気にするのなら外食などしないのだ。
「じゃあそこで抜けるかな」
「いいよ、僕らもそこで帰るから」
「えー、悪いって」
「僕ら二人残ったって宅飲みと変わらないし。同じ方向だし一緒に帰るよ」
 何度か酒の場をともにした月島は知っている。黄金川も平気な顔をして酔っているのだ。打ち上げ後の千鳥足を何度か見ている月島にとって、彼をこのまま一人帰すのはナシである。どうせ一緒に飲んでいることは伝わっているのだろうから、顔を合わせることもおかしい話ではない。
「そっか。ありがと」
 彼の笑顔を子犬のような笑顔、と称したのは観客の誰かだった。こんなにでかいのに子犬とは、と首を傾げた記憶がある。
 そして、黄金川が先輩へと連絡を始めたのと同時に個室、とは言っても間仕切りだけの空間のため、かけられたのれんをくぐるなにかが現れる。
「ごめんごめん、母さん話長くてさー! あ、ビール! 泡減ってるー」
「まだ飲むなら少し飲んで頼んじゃいなよ。ラストオーダーでここ出るから」
 賑やかに戻ってきた山口は、黄金川の隣へ座るなりジョッキを掴み、ごくりごくりと豪快にビールを流し込んだ。ロックグラスに入れられたカルーアミルクを嗜む自分とは違うが、それぞれを押し付けず尊重しあうことで長い時を共に過ごせるのだ。
「もう出るの?」
「二口さん来るんだって」
「そうなんだ! 久しぶりだし挨拶したいな」
 自分だけについて回っていた幼馴染が、本来そうだったのを思い出したように社交的な姿を見せるようになったことは少しだけさみしく感じるものの、どちらかといえば愛想のない自身の隣にいるのにはちょうどいいのだ。
 ほのかに赤くなった山口の頬を見て思う。チームメイトを送って、彼の先輩に挨拶をしてそれから家につれて帰ろう。最寄り駅前であるこの場所からは、山口の家が少し奥になる。黄金川の家に寄るならば余計に。
 どうせ明日は休みだ。ビールを好む山口のために、コンビニで缶ビールでも買って帰ろう。家でならばいくら飲みつぶれても問題ないのだから。
「失礼しまーす。ラストオーダーです、ご注文ございますか?」
 各々最後のアルコールを注文したと同時に、黄金川のスマートフォンがまた震えた。今度は電話のようだった。
 最後の一杯を味わって飲んだら、夜風を浴びて僅かな酔いを覚まそう。そうでもしないと豪快に金色の炭酸を喉に流し込む二人の男を連れて帰ることなどできないのだ。
 そんな二人を眺めながら月島は一人、この場を惜しむようにカルーアミルクを煽る。甘くて苦い、その感情に寄り添うような味がした。

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