【HQmc】1001

シリーズ: HQmc 第2話

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・某四角いサンドボックスゲームパラレル。サバイバル・ノーマル。
・少々ゲームシステムの改変あり。
・キャラたくさん出したい
・現在のメンバー:二口、滑津、花巻
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 情報のすり合わせをしよう、と花巻に提案されたが、持っている情報なんてない。今手に持っているのは作業台ひとつだし、せいぜいが目覚める前に聞こえた『声』。悪しきものを倒せと、そのために少しの不便をなくすと。それくらいのものだ。
「俺もそれは聞いた。そうじゃなくて、ええと、ごめんだけど……俺、この『ゲーム』のこと表面しか知らなくてさ……」
 大層な言い方をしたが、要は『操作方法の説明』がほしいと、そういうことのようだ。
「あー、それなら滑津のほうが」
「あんたもわかるでしょ」
「悪いけどほとんどクリエイティブでレッドストーン回路しか触ってねえんだわ」
 サバイバルにも興味はあったが、それよりも惹かれたのは電子回路のほうだった。最初こそ『サバイバル』モードでゲームを始めた。しかし部活終わり、疲れた体で『敵モブ』との戦闘なんて頭が回らずにすぐゲームオーバー。授業の復習も兼ねて、慣れるまではクリエイティブ、つまりはサバイバルのない建築モードで遊ぶことにしたのだ。動画や攻略サイト、同じように始めた部活メンバーの助言を経て自動ドアを作るところまではいけた。まだ横一マス縦二マスのピッタリサイズだが、次はもう少し大きなものを作ろうとしていたところである。
「滑津さんだっけ。詳しいの?」
「ええと、まあ……アルファ版、ええと、まだ正式版じゃない頃から遊んでて……」
 彼女がそんなにもプレイしているということは知らなかったが、アドバイスを求めれば的確な回答が返ってくるのは経験値の差なのだ。スポーツに関わる人間だから、経験がなににも勝ることをよくわかっているので。
「とりあえずどうしたらいい? 経験者の視点から最初にやるべきことを教えてほしい」
 花巻の尋ねかたも落ち着いていて的確だ。憶測もなにも挟まず、ひとまずチュートリアルを求めたのだから。あいにくこのゲームは、最初のうちこそ『死に覚えゲー』に近い。声が言った取り除かれた『不便』がなんなのかは不明だが、木のとり方や浮いたままのそれを見れば、基本的にはなんの変哲もないいつものゲームである。
「最初は、夜を明かすこと。暗い場所にはゾンビやスケルトンといった敵モブが出ます。初日から家を建てられたりベッドが作れれば申し分ないけど、それができない場合は地下に潜るしかない」
「敵モブ……」
「死んだりすんのかな……」
 最初こそ、そればかりで進まなくてクリエイティブへ転向した身である。ゲームだから良かった。今、自分の身でそれがあったら。恐ろしくてたまらない。暗がりを歩くことなんてできるわけがない。
「ゲームではリスポーンがあるけど」
「リスポーン、て」
「あ、ああ、ヒットポイント、要は体力ですね。それがゼロになるとゲームオーバーで。最後にベッドで寝た場所か、この土地に初めて生まれた場所に生き返るんです」
 丁寧な説明はわかりやすい。基礎知識のある二口はまだしも、完全初心者の花巻には専門用語は辛いだろうから。
 言いながら、滑津は空を見上げる。眩しい太陽を睨みつけたと思えば「今は午後ですね」と告げた。
「よくわかるな」
「この世界は二十分で一日だから太陽の動きが早くて。だいたい見つめてれば沈んでるのかどうかわかるから」
 そう言うなり、だけど、付け足す。
「あたしの知ってるあれより、格段に遅い。時間の経過も不便の一環として引き伸ばされてるのかも」
 いわく、ちょうど僅かに動いてくれたからわかったのだという。確かに昼が半分の十分なら、今こうして話をしている間にあっという間に夜だろう。
 二口とて、この世界の夜が怖いことは十分に理解している。もし昼が長く、夜も同じだけ長いのなら。恐怖の時間はすぐに終わってくれないということだ。外に出られない時間の時間つぶしにも最初は苦労した。暗い洞窟の中でなにもできずに放置した記憶もある。
「まだ余裕あるみたいなんで、まずはツールを作りましょう。花巻さん、まずはこう……なんて言ったらいいのかな、ええと、インベントリ、って念じてみてもらっていいですか?」
 それを知っていればその『画面』をイメージすれば良いのだろうが、知らないものにはおそらくなによりも、一番難しいだろう。インベントリ、という単語だけでなんとかなることを祈るしかない。
「イン、ベントリ……、えっ、なんか出てきた……?」
「……! そう、それ! 四角い枠がたくさんありますか!?」
「あっ、コレおまえらから見えないの? うん、下と、右上に四角があってその左に緑の本、四角、俺……、俺!?」
「装備とか着ると見た目変わるんすよ、そこ」
「……てか花巻さん、今緑の本って言いました……?」
 インベントリを開き、自分の姿が写っている驚きかインターフェイスの物珍しさか、SFチックな表示に感動しているのか、先程までより目を輝かせている。
 しかし、そんな花巻の様子に、言葉に。滑津は驚いて目を見開いて、正面を見続けている。インベントリを開いているのだろうか。
「どうした?」
「……これ、あたしの知らないバージョンだ……」
 口元が引きつった滑津の様子に、二口もまた言葉を失う。仲間内でも最新の情報を持っていた彼女が知らないモノがある。サバイバル初心者と完全初心者のパーティに取っての生命線が絶たれたような、そんな感覚。
 絶望かと思った。生死がかかっているかもわからず、未知のものまである。ひとりだったときの絶望感とはまた違うものが二口を襲ったが、ふと、視線を動かした先にいた存在に、思わず目を見開いた。

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