【茂二】1002
・ちょっと大人向け
見上げた彼の顔は、いつもの優しい顔ではなくひどく興奮した顔だった。先程まで揺さぶられていた体は節々が軋んでいるものの、満たされた感覚のほうが強い。
告白したのは二口から。大好きな先輩であることを誰かに言ったことはないが、バレバレだと言ったのは同輩の女川だ。そういう意味での好意だとはバレていなかったようで、茂庭の卒業前に告白したこと、受け入れてもらえたことを伝えれば「マジかよ」と驚かれてしまった。
キスをしたのはインターハイ県予選で優勝したその日。本当はもっと会いたかったが、部活を優先するように言われたこと、離れたりしないからと未来の保証をくれたことに安心してより一層部活に集中できた。茂庭が繋いでくれた鉄壁を、中途半端にすることはできないから。
開催地が年によって変わるインターハイだが、伊達工が優勝した年は北九州での開催だった。行かないと損だろ、なんて言いながら就職したての会社を休み、わざわざ応援に来てくれた。結果はベスト16。不甲斐ない試合をしたつもりはないが、完全燃焼には少し遠い。それでも全国という大舞台に鉄壁の名を轟かせることができたのは誇りである。
インターハイが終われば最後、春高だ。県予選大会も奮闘したが、準決勝敗退。二口の高校でのバレーは終わった。とはいえバレーを辞めるつもりはなかったので、就職後もどこかのチームに所属しようと考えていた。だがそのためには就職が先で、慣れないことをするのにてんやわんやだった。
初めて体を繋いだのは就職が決まった三日後だ。告白したのだから、性行為について考えなかったわけではない。ぼんやりと茂庭のことは抱けると思っていたし、自慰をする際は彼のことを考えていた。キスの先に至るまでは。思い返せばキスだって茂庭からだった。その日も茂庭がキスをしてくれて、それからソファーに押し倒された。
今、見上げている顔よりも少しだけ必死だったと思う。「お願い、抱きたい」と懇願する姿を見て、いや自分がと言えるわけがなかった。「抱いて」と願い、体を明け渡す。みっともない姿を見せたと思っているが、彼は、何度も可愛いと、好きだと言ってくれた。
「茂庭さん」
腕を伸ばす。なにも身に付けない体で、抱き寄せて素肌同士を触れ合わせる。もう一回。明日に響くかどうかなんて関係ない。今、最愛からの愛情が欲しくてたまらないのだ。
「ごめん」
彼が、身をかがめて首元に顔を埋めた。首筋に唇が触れて、甘く吸われた。見える場所に痕をつけることはしない茂庭だから、その吸い付きが肌を食むだけのものだと分かる。それから、唇が開いて甘噛み。それが他人だったならそんな場所に触れさせるわけはないが、茂庭ならばいい。そのまま力強く歯を立てられても、締められても受け入れてしまう自信があった。
だから、顔を上げた彼の表情が獰猛な獣にも等しい捕食者のそれだとしても、体が喜ぶだけだ。
「もう一回で終われる気がしないんだけど」
二口は笑った。律儀な人だな、と。
「そんなの、一回目のもう一回に決まってるじゃないですか」
もう一回じゃ物足りない気がするのは、二口だって同じだった。